事業を始める際、自宅住所を公開せずに郵便物を受け取りたいと考える方は多いでしょう。その選択肢として「バーチャルオフィス」と「私書箱」があります。どちらも郵便物を受け取れるサービスですが、実は用途や機能、コストに大きな違いがあります。
今回は、両者の違いを明確にし、自分の事業に適したサービスを選ぶためのポイントを解説します。
バーチャルオフィスとは

バーチャルオフィスは、物理的なオフィススペースを持たずに、ビジネス用の住所を借りられるサービスです。住所の利用だけでなく、郵便物の受取や転送、電話番号の提供、会議室の利用など、ビジネスに必要な機能を提供します。
主な利用目的は法人登記、ホームページや名刺への住所記載、特定商取引法に基づく表記などです。
私書箱とは
私書箱は、郵便局が提供する郵便物受取サービスです。郵便局内に専用のボックスが設置され、そこに郵便物が配達されます。利用者は郵便局まで取りに行く必要があります。
住所表記は「〇〇郵便局留 私書箱△△号」という形式になります。
両者の基本的な違い
比較表:バーチャルオフィス vs 私書箱
| 項目 | バーチャルオフィス | 私書箱 |
|---|---|---|
| 提供元 | 民間企業 | 郵便局(日本郵便) |
| 住所の種類 | ビル名・階数を含む一般住所 | 「〇〇郵便局留 私書箱△△号」 |
| 法人登記 | 可能 | 不可 |
| 郵便物の受取 | スタッフが代理受取 | 専用ボックスに配達 |
| 転送サービス | あり(定期転送) | なし(自分で取りに行く) |
| 宅配便の受取 | サービスによる | 不可(郵便物のみ) |
| 電話番号の提供 | あり(オプション) | なし |
| 会議室利用 | あり(オプション) | なし |
| 月額費用 | 3,000円〜15,000円 | 1,030円〜9,900円 |
住所としての使い勝手
バーチャルオフィスの住所
バーチャルオフィスの住所は、通常のビジネス住所と同じ形式で記載できます。
記載例
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前1-1-1 ○○ビル5階
この形式であれば、ホームページや名刺、特定商取引法の表記に自然に記載できます。取引先からも通常のオフィスとして認識されやすいでしょう。
私書箱の住所
私書箱の住所は、特殊な形式になります。
記載例
〒100-8798
東京都千代田区大手町郵便局留
私書箱123号
この表記を見ると、私書箱を使っていることが明白です。ビジネス用途としては、やや信頼性に欠ける印象を与える可能性があります。
法人登記の可否
この点は非常に重要な違いです。
バーチャルオフィス
多くのバーチャルオフィスでは法人登記が可能です。株式会社や合同会社の本店所在地として登記できるため、個人事業主から法人成りする際もスムーズに移行できます。
ただし、一部のバーチャルオフィスでは法人登記を制限している場合もあるため、契約前に必ず確認が必要です。
私書箱
私書箱の住所では法人登記はできません。私書箱はあくまで郵便物の受取場所であり、事業所としての実態がないためです。
将来的に法人化を考えている場合、私書箱では対応できないことを理解しておく必要があります。
郵便物の受取と転送
バーチャルオフィスの郵便物管理
バーチャルオフィスでは、スタッフが郵便物を受け取り、定期的に指定住所へ転送してくれます。
転送サービスの特徴
- 週1回、月2回など、定期的な転送
- 緊急の場合は別途対応可能なケースも
- 転送前に郵便物の写真をメールで通知するサービスもある
- 宅配便も受け取れる場合が多い
転送費用は基本料金に含まれる場合と、別途実費がかかる場合があります。
私書箱の郵便物管理
私書箱では、郵便物が専用ボックスに配達され、利用者自身が取りに行く必要があります。
私書箱の特徴
- 転送サービスはない
- 郵便局の営業時間内に取りに行く必要がある
- 大型の郵便物はボックスに入らない場合、窓口での受取になる
- 宅配便(ゆうパック以外)は受け取れない
頻繁に郵便物が届く場合や、遠方に住んでいる場合は不便です。
特定商取引法の表記について
ネットショップなどを運営する場合、特定商取引法に基づく表記が必要です。
バーチャルオフィスの場合
通常のビジネス住所として記載できるため、問題なく使用できます。実際に多くのネットショップ運営者が活用しています。
私書箱の場合
私書箱の住所を特定商取引法の表記に使用できるかは、解釈が分かれる部分です。消費者庁の見解では、事業者の「所在地」を記載する必要があるため、私書箱のみの記載では不十分とされる可能性があります。
実際には、私書箱と併せて実際の所在地を別途記載するなどの対応が必要になる場合があります。
宅配便の受取
バーチャルオフィス
多くのバーチャルオフィスでは、宅配便(ヤマト運輸、佐川急便など)の受取にも対応しています。ただし、サービスによって対応状況が異なるため、契約前に確認が必要です。
私書箱
私書箱で受け取れるのは、基本的に郵便物とゆうパックのみです。ヤマト運輸や佐川急便などの民間宅配業者の荷物は受け取れません。
商品の仕入れや資料の受取などで、様々な配送業者を利用する場合は不便です。
費用の比較
バーチャルオフィスの費用
月額費用は3,000円〜15,000円程度が一般的です。
費用の内訳
- 基本料金:3,000円〜10,000円
- 転送費用:無料〜3,000円(または実費)
- 電話番号オプション:3,000円〜10,000円
- 会議室利用:1時間1,000円〜5,000円
サービス内容によって価格は大きく変わります。
私書箱の費用
郵便局の私書箱は、サイズによって料金が異なります。
私書箱の月額料金(税込)
- 1号(小):月額1,030円
- 2号(中):月額3,390円
- 3号(大):月額9,900円
初期費用として、保証金(月額料金の2倍)が必要ですが、解約時に返還されます。
コスト面では私書箱の方が安いですが、提供されるサービスの範囲が大きく異なります。
それぞれに適した利用シーン
バーチャルオフィスが適している人
- ネットショップや通販事業を運営している
- 法人登記を考えている、または既に法人化している
- 自宅住所を公開したくない
- 取引先からの信頼性を重視する
- 宅配便も含めた郵便物管理を任せたい
- 定期的に郵便物を転送してほしい
- 電話番号や会議室も必要
私書箱が適している人
- 受取る郵便物の量が少ない
- 郵便局が自宅や職場の近くにある
- 法人登記は不要
- コストを最小限に抑えたい
- 郵便物のみで宅配便の受取は不要
- 自分で取りに行くことに抵抗がない
選び方のポイント
自分に合ったサービスを選ぶために、以下の点を確認しましょう。
チェックリスト
- 法人登記の必要性: 将来的に法人化を考えているか
- 郵便物の量と頻度: どのくらいの頻度で郵便物が届くか
- 受取に行く手間: 定期的に郵便局へ行けるか
- 宅配便の利用: 郵便以外の配送サービスも使うか
- 住所の見せ方: 取引先にどう見られたいか
- 予算: 月額どのくらいまで支払えるか
- 追加サービス: 電話番号や会議室が必要か
これらの項目を整理することで、自分に適したサービスが見えてきます。
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注意すべき点
バーチャルオフィスの注意点
- 同じ住所を複数の事業者が使用している
- サービス会社が廃業すると、住所が使えなくなる
- 業種によっては許認可の関係で利用できない場合がある
- 郵便物の転送に数日かかる
私書箱の注意点
- 郵便局の営業時間内にしか受け取れない
- 長期間放置すると、保管期限を過ぎて返送される
- 大型の郵便物は別途窓口での手続きが必要
- ビジネスとしての信頼性に欠ける印象を与える可能性
まとめ
バーチャルオフィスと私書箱は、どちらも郵便物の受取に使えますが、用途や機能は大きく異なります。
ビジネスとして本格的に事業を展開するなら、バーチャルオフィスが適しています。**法人登記ができ、通常のビジネス住所として使用でき、郵便物の管理も任せられます。
一方、個人的な用途や、郵便物の量が少なく、コストを最小限に抑えたい場合は私書箱も選択肢になります。ただし、ビジネス用途としては制限が多い点を理解しておく必要があります。
自分の事業規模、将来の展望、予算などを総合的に考慮して、最適なサービスを選んでください。
